だが、僕にもチャンスが来た。
彼女がいつものように、総合窓口から通帳など大量に処理した伝票を受け取り、出口へと向かって行った。
「ありがとうございました」
僕は彼女の背中に向かって声を張り上げた。
「沖田建築様!」
突然、総合窓口の美也が大きな声で彼女を呼んだ。
しかし、彼女は美也の声に気が付かず出て行ってしまった。僕は慌てて立ち上がり美也を見た。
「まだ一つ手続が済んで出ない通帳があって!」
美也がカウンターの外に出ようとしている。
出口に一番近い僕は「僕が行きます!」とだけ言うと、外へ飛び出した。
いつものんびりしている僕の動きに、皆が目を丸くしていたが、そんな事はどうでも良かった。
駐車場に彼女の後ろ姿を見つけた。
「沖田建築様!」
僕は大きな声で叫んだ。
彼女はその声に振り向き、驚いた顔をした。
「まだ、通帳をお渡ししていない物がありまして。すみません……」
僕は息を切らしながら彼女に近づいた。
「そうでしたか…… すみません、私も確認してなくて」
「車でお待ち下さい。僕が持ってきますので……」
「いいえ、私も取りに行きます」
彼女は笑顔を見せ、僕の横に並んで歩き出した。
僕は彼女と歩ける事に舞い上がってしまった。
何か話さなきゃ。そうだ天気の話と思った時だった。
「沖田建築様。すみません」
美也が通帳を持って走って来てしまった。
僕は美也が彼女に渡そうとした手帳を取り上げた。
僕の口から咄嗟に出た言葉は……
「今度、僕とお話しして下さい!」
僕は通帳を両手で持ち彼女に差出し頭を下げた。
これがバラの花ならまだしも、通帳じゃ……
「あっ、はい。でも私、ボーナス予定があって、定期預金出来ないかもしれません」
彼女は申し訳なさそうに、通帳を受け取った。
彼女は、定期の勧誘だと思ったのだ。
「あっ。いや、その……」
僕は言葉に詰まった。
「すみません。ありがとうございました」
彼女は美也に笑顔で頭を下げると、沖田建築と看板を背負った小さな車へと向かって行った。
僕は力尽きたように立ちつくしてしまった。
「へえ、海原さん。雨宮さんの事が気になるんだ?」
美也が僕の背中に声を掛けて来た。
「いや、そんな…… 彼女、雨宮さん、って言うんだ……」
「雨宮夏樹(あまみやなつき)さん、二十三歳」
美也が僕の顔をのぞき込んで言った。
「僕は別に……」
僕は美也から目をそらした。
しかし、僕の頭の中には、雨宮夏樹と言う名前がぐるぐると回っていた。
彼女がいつものように、総合窓口から通帳など大量に処理した伝票を受け取り、出口へと向かって行った。
「ありがとうございました」
僕は彼女の背中に向かって声を張り上げた。
「沖田建築様!」
突然、総合窓口の美也が大きな声で彼女を呼んだ。
しかし、彼女は美也の声に気が付かず出て行ってしまった。僕は慌てて立ち上がり美也を見た。
「まだ一つ手続が済んで出ない通帳があって!」
美也がカウンターの外に出ようとしている。
出口に一番近い僕は「僕が行きます!」とだけ言うと、外へ飛び出した。
いつものんびりしている僕の動きに、皆が目を丸くしていたが、そんな事はどうでも良かった。
駐車場に彼女の後ろ姿を見つけた。
「沖田建築様!」
僕は大きな声で叫んだ。
彼女はその声に振り向き、驚いた顔をした。
「まだ、通帳をお渡ししていない物がありまして。すみません……」
僕は息を切らしながら彼女に近づいた。
「そうでしたか…… すみません、私も確認してなくて」
「車でお待ち下さい。僕が持ってきますので……」
「いいえ、私も取りに行きます」
彼女は笑顔を見せ、僕の横に並んで歩き出した。
僕は彼女と歩ける事に舞い上がってしまった。
何か話さなきゃ。そうだ天気の話と思った時だった。
「沖田建築様。すみません」
美也が通帳を持って走って来てしまった。
僕は美也が彼女に渡そうとした手帳を取り上げた。
僕の口から咄嗟に出た言葉は……
「今度、僕とお話しして下さい!」
僕は通帳を両手で持ち彼女に差出し頭を下げた。
これがバラの花ならまだしも、通帳じゃ……
「あっ、はい。でも私、ボーナス予定があって、定期預金出来ないかもしれません」
彼女は申し訳なさそうに、通帳を受け取った。
彼女は、定期の勧誘だと思ったのだ。
「あっ。いや、その……」
僕は言葉に詰まった。
「すみません。ありがとうございました」
彼女は美也に笑顔で頭を下げると、沖田建築と看板を背負った小さな車へと向かって行った。
僕は力尽きたように立ちつくしてしまった。
「へえ、海原さん。雨宮さんの事が気になるんだ?」
美也が僕の背中に声を掛けて来た。
「いや、そんな…… 彼女、雨宮さん、って言うんだ……」
「雨宮夏樹(あまみやなつき)さん、二十三歳」
美也が僕の顔をのぞき込んで言った。
「僕は別に……」
僕は美也から目をそらした。
しかし、僕の頭の中には、雨宮夏樹と言う名前がぐるぐると回っていた。


