しばらく寒い日が続いて、外は白く雪が積もっていた。

「海原さん。お願いできますか?」

 為替担当の高木が窓口から僕を呼んだ。為替の窓口には外人の男二人が何やら英語でまくし立てている。


 僕は高木の元へ行き、外人客に英語で話し掛けた。

 彼らは、旅行中にトラベラーズチェックを無くしたらしく、銀行へ飛び込んだようだ。

 全ての説明と手続が済むと、彼らは何度もお礼を言って去って行った。


「海原さん、ありがとうございました。噂通りの英語力ですね……」
 高木が感心したように言った。

「日常英会話程度だよ…… たいした事じゃない」
 僕はそう言うと、自分の仕事に戻った。


 まさか、彼女が僕の事を見ていたなんて気にもとめなかった。


 その日、僕は課長に呼ばれた。

 また、何かミスがあったのだろうか? 僕は気持ちが重く、課長の前に立った。


「海原、最近えらく仕事に力入っているな。部長も感心していたよ」
 課長の言葉に僕は驚いた。

「えっ あ、ありがとうございます」

「全く、もっと前から気合入れて欲しかったよ。それでだ…… 河内産業を担当してみないか?」

 課長が河内産業のファイルを僕に見せた。

 河内産業とは大手の会社で、新しく取引が行われると話題になっていた。


「僕にそんな大きな仕事……」
 僕はあまりの出来事に言葉が上手く出なかった。

「最近の君なら大丈夫だろ? もともと優秀なんだし、チャンスだぞ。やってみないか!」

「はい!」
 僕は大きく肯いた。

「なあ、海原…… 沖田建築の彼女とはどうなんだ?」

 原田がニヤリと僕を上目使いに見た。


「はっ。なんでそんな……」
 僕は動揺して、手からファイルを落としてしまった。

「お前の、彼女を見てぼうーっとなっている姿見たら、誰だって気が付くよ。惚れちまったか? 男が急に仕事に力が入る時は、大抵女が絡んでいるからな」

「いえ…… 僕には届かない相手ですから……」

「届くかどうかは、手を伸ばしてからだろ? がんばれよ」

「はい! ありがとうございます」

「ばか! 仕事だよ」

「あっ! すみません……」

「嘘だよ。彼女と仕事両方だ!」
  
 原田は僕の肩を強く叩いた。