むーんりっと・りゆにおん(仮)



「……どういうことですか?」
「ふっふっふー」
「…………」

口を閉じてカーブを描くように口角を上げるという、どこか犬っぽい意味あり気な笑みに、正直、イヤな予感しかしなかった。しかし嫌がる間もなく「ついて来て」と半ば強引に手を引かれて、屋上に連れて行かれた。


そこで目にした満天の星空には、これ以上ない説得力があった。

その夜は上弦の半月のころで、月は宵(よい)のうちに沈んでしまっていたので月明かりはなく。それでも空いっぱいに瞬く星たちの明かりがそれに勝るとも劣らない、まさしく星月夜だった。

「どう?」
「どうって言われても……」

当時は、屋上に施錠がされておらず、昼間に屋上に出ることは特に禁止されていなかった。しかしさすがに、消灯時間後に屋上に出るのは、入院規約違反だ。

婦長や担当医がそれを許してくれると言うならともかく、一介の准看護師に許すと言われても、にわかには信じ難い。

「この星月夜にはすごく惹かれますし、気持ちは嬉しいですけど……看護師さんにそんな権限、あるんですか?」
「そこは、企業秘密ということでひとつ♪」
「そんな、どこかの秘密工作員じゃあるまいし……」