「…………」
本当に成人してからタヌキになってしまうかはともかく。俺は寝た振りを看破(かんぱ)されていたことにため息をつき、仕方なく目を開けた。
「おはよ♪」
「……いいんですか? 看護師が、消灯後に患者を起こすような真似をして」
璃那と話していた時とはまったく別人な態度だが、こちらの方が、普段の俺の態度だった。ただ、このまるで蒼依のように冷やかで刺々(とげとげ)しい態度は別に不機嫌からのものではなく。いわゆる、ハリネズミのジレンマゆえのものだった。
「タヌキさんの寝顔が可愛かったって、教えてあげようかなと思って♪」
「…………おやすみなさい」
立てた人差し指を頬につけたポーズでウィンクされた。普通ならば可愛いポーズなのだろうが、懐中電灯であごの下から顔を照らしながらでは可愛さのかけらもない。
実は喉元まで来ていた絶叫を無理やり呑み込むまで数秒かかり、そのままねてしまおうと、都に背を向けて掛け布団を肩まで引き寄せた。
「わーっ、冗談冗談っ。ほんとの用件はこっち」
慌てた都の方から、何やら金属が擦(こす)れ合う音がした。見るとそれは――
「……何ですか、それ」
「見てわかんない?」
「懐中電灯で照らしてくれないと見えません」
「ああっ、いつの間にかポッケに、先端に光る石が付いた棒がーっ!」



