二年前の夏。
初めて上京した俺は秋葉原で璃那たちと二度目の再会を果たし、そのあと、交通事故に遭(あ)った。
事故自体は大したことではなかった。当日のSNS上でちょっとした騒ぎになり、翌日の朝刊の片隅に小さく書かれて済まされる程度のありきたりなことが、俺の身に降りかかったのだ。
幸い外傷はなく、命には別状なかったものの。それでも頭を打っていたので救急病院でMRIにかけられ、検査と問診の結果、脳にダメージを負っていて、後遺症が残っていると診断された。
すなわち、手足の痺(しび)れと部分的な記憶喪失が。
それもなぜか、璃那に関する記憶だけが、俺の中から失われてしまっていた。
医者の話では、記憶喪失の症状でそういうことは特にめずらしくないらしい。皮肉な話だが、一番忘れたくない記憶が一番喪失しやすいのだそうだ。
それをきっかけに、俺はしばらく、悠紀と蒼依とともに生活することになった。



