「もう慌てたよ。てっきり再会の挨拶(あいさつ)だけかと思って、しばらく黙って蚊帳の外にいたら、話がどんどんレールからそれていっちゃうんだもの」と、璃那。

「ごめんなさい」

たぶん、自分を叱(しか)る相手が璃那だったからだろう。蒼依が素直に謝ったのに対して、

「だって蒼依ちゃんがぁ~」

悠紀は半分泣き顔で、言い訳をしようとした。どっちがコドモでオトナかわかりゃしない。

「うん、そうだね。蒼依はいましなくてもいい話をわざわざ蒸し返して、この場の空気を険悪にしようとしたよね。でもそれはわざとだから」

「わざと?」

まるで母親が子供を諭(さと)すような妹の言葉に、現在二十六歳のコドモなオトナは半泣きをやめて目をぱちくりさせた。

「ええ。わたしを蚊帳の外から引っ張り込むためにね」
「そうだったの?」

「そうだよね、蒼依?」

「……まあ、そうだけど」

疑問と確信の視線を向ける二人の姉から注目を浴びた蒼依は、それらから逃げるように顔を背(そむ)け、呟くように答えた。

「ほらね?」

「なぁんだ」

片目を瞬かせて微笑む璃那と、誤解が解けて晴れやかに笑う悠紀。

一方の蒼依は歯噛みして、誰にともなく忌々(いまいま)しげにぼやいたんだそうだ。

後日、俺に向かってそうしたように。

「ルナ姉さんだって、悠姉が鈍いフリをしてるのはわかってるくせに。なのにわざわざ本音をばらすなんて、完全に意地悪だわ」