ちなみに、璃那の思案するときに指で口元を掻くクセも、元は悠紀の真似から身に染み付いたものだ。
「ここに来る前、私と蒼依ちゃんはね、喫茶店で仕事をしてたの。このカッコで」
「ああうん。それはその通りね」
「…………。――はい?」
悠紀の可愛らしい仕草でのトンデモ発言に、蒼依は同意したが、俺は耳を疑った。
「聞こえなかった? あたしたちはここに来る前、太平洋のど真ん中でお月見をするよりも前に、喫茶店のウェイトレスをしてたの。秋葉原で」
「いや、それはわかる」
蒼依が、噛(か)んで含めるように言い直してくれた。
しかし俺が訊き返したのは、聞き取り難かったわけでも、意味がわからなかったからでもなかった。
「じゃあなんで訊き返したの?」
「このカッコでってとこが幻聴かと思って」
蒼依のメイドっぽい姿はまだわかる。
メイド喫茶というものが秋葉原で流行るようになって久しいし、未だにその人気の火は消えてはいない。
しかし、巫女姿のウェイトレスがいる喫茶店など……
「知らないの? 普通にあるわよ?」
あるんだ。しかし店員が巫女ということは……
「来店の挨拶は『おかえりなさいませ、神主さま』なんだよー」
やっぱりか。
「ちなみにこれは巫女さんじゃなくて、巫女さんっぽい恰好をしたラノベキャラのコスプレで――」
そんな店を始めた方も始めた方だが、すっかり、そういう店を受け容れることが出来る街になった秋葉原も秋葉原だよなぁ……
どんどんディープな腐女子的方向へ流れてゆく悠紀の説明を聞き流しながら、俺は遠い目をしていた。



