敗戦後。
俺と璃那は二人で並んで浮かび、ひと心地つこうと、月を眺めることにした。
月は、南中高度からゆっくりと地上に向かって西へ傾き始めていた。
不意に、璃那がくすっと笑い、ぽつり呟いた。
「でも良かった」
「何が?」
「何とか遅刻しないで済んだから」
「遅刻? そんなこと気にしてたの?」
どこかほっとしたような笑みで言う璃那に、呆れてしまった。
今夜の再会は、きっちり待ち合わせ時間を決めていたわけじゃない。
決まっていたのは『十六夜月が南中するくらいの時間に』というアバウトなもので、多少それより遅く来ようと、誰からも何の咎(とが)めも罰もないのだ。
とは言え、かく言う俺もここに着いたとき、遅刻しないで済んだとわかって内心、胸を撫(な)で下ろしたけれど。
「そりゃあ気にするよ。せっかく久しぶりにここでトキくんと逢うのに、遅刻なんてしたくない」