「聞いてただけで、左の耳から右の耳へ素通りしてったんだろ」
《 どっちかって言うと、右から左だな 》
「屁理屈(へりくつ)言うな。どっちでも同じだ」
《 右の耳から聞いてたのは事実だぞ? けっこう重要な違いだと思うが 》
「そうだとしても、論点はそこじゃなくて俺の話を聞き流して覚えてなかったってとこだろうが」
《 おお、なるほど 》
ああもうまったく口の減らねぇ……ん?
不毛な言い合いをしながら視界の端で、璃那の表情をうかがった。
ひとりだけ置いてけぼりにされて不機嫌になっているかと思ったが――
《 なんだ? ――何を笑ってやがる? 》
むしろ俺たちを微笑ましく見つめていた。
アルテも俺の視線を追ってそれに気づき、璃那に訊いた。
「ん? あぁいや。二人とも仲良いんだなぁって思って」
は?
「《 どこが 》」
どこかうらやましそうに笑顔で言われたが、あまりにも心外な返答にツッコミを入れると、偶然〝声〟とハモった。
「そういうとこがだよ」
璃那は、心から楽しそうに言った。
「俺とアルテが仲良しに見えるって、そりゃ何の冗談? なあ」
《 まったくだ。心外にもほどがある 》
「そうなの? でもトキくんたちは仲悪いと思っていても、わたしからは仲良しに見えるんだよ」
ケンカするほど仲がいい。
つまりはそう言いたいのだろうか。
その後、璃那から客観的事実というものを説(と)かれ、それ以上の反論が出来なかった俺たちは、揃って白旗を掲(かか)げたのだった。