アルテに訂正を求められたのはキミって言ったのが気に障ったからだと思ったのか、璃那はふてぶてしく言われたことを気にも留めず素直に謝って、質問を改めた。

アルテという名は、俺が付けた。

本名は別にあるらしいのだが《 あんな気に食わん名前など忘れた 》と言って明かそうとしなかったので、アルトゥアミスからもじったのだ。

《 『くん』も要らねえ、呼び捨てでいい 》

やっぱり偉そうに胸を張ったままで、俺との初対面時には言わなかったことを言った。

コイツがこんなに女尊男卑(じょそんだんひ)が激しいとは知らなかった。

「そう? わかった。じゃあアルテ。わたしも呼び捨てか、ルナでいいよ」

《 ルナ? 》

アルテは小首を傾げる代わりに、尻尾でハテナマークを形つくる。

それを見た璃那は両の手のひらを顎(あご)の下で合わせて「おや可愛い♪」と言ってから、続けた。

「そ、ルナ。ラテン語でいう月のことで、お月見好きなわたしの愛称。これも、トキくんから聞いてない?」

そこはちゃんと話したぞ。

《 ………… 》

しかしアルテは、目で訴える俺を見て沈黙すること数秒。もしこれがテレビやラジオの生放送中だったら確実に放送事故になる。

《 ……ああ。いや、聞いてた 》

思い出したらしい。

しかし口から出まかせだ。

意図的に俺たちから視線をそらしている。

そろそろ口を挟(はさ)んでもいいだろうか。

そうすると止めどない言い合いが始まるのは必至。

だがいい加減、黙っていられない。