昔話をさえぎった仔猫の名は、アルテという。

シャルトリューというフランス原産の種類の猫で、ブルーやグレーの毛色が一般的。

だがコイツはねずみ色に銀を混ぜ込んだような色の体毛をしている。

体躯(たいく)が仔猫のように小柄なので便宜上『仔猫』としているが、実際の年齢は俺も知らない。


箒の柄先に引っかけたドーム状の鳥かごの中でぬいぐるみのように行儀良く四足を揃えて佇んでいるものの、その顔はなぜか、眉間に眉根を寄せていた。

《 相思相愛なのに付き合えないって、意味がわからん 》

「……ふむ」

もっともな疑問だった。

コイツが一般的な猫と違うのは、ヒトの言葉を理解し、特定の人間となら対話も出来ることだろう。

その口調はこの通りオヤジ臭い。

だがコイツの〝声〟は、特定の人間以外には、そこいらの猫と同じ、ただ「にゃあにゃあ」鳴いてるだけにしか聞こえない。

そのため傍目(はため)からは、コイツの口調がオヤジ臭いことなどわかるはずもないばかりか、むしろいまコイツと普通に話している俺の方がよっぽど奇妙に映ることだろう。