「どうして、遅れてごめんなんて言うのさ」
「え?」
「わたしはゆうべ、毎晩ここで会おうねっとは言ったけど、待ち合わせ時間までは決めてなかったよね? なのにどうして、遅れたと思ったの?」
「それは……」
言われて初めて、そういえばそうだったと気づいて、自問した。
すると返って来た答えは、
「待ち合わせの時間の時間を決めなかったのは、昨日出会った時刻が待ち合わせの時間だからなのかと思って……」
言いながら、心の中では、きっと反論されると思ってビクビクしていた。
「そうだったの?」
ところが璃那は、何の疑いも持たずにただ信じてくれたようだった。
「う、うん。それなのに今夜、その時間に間に合わなくて、お姉ちゃんを待たせちゃったのが申し訳ないなと思ったから……その――」
それ以上言葉が見つからず、後が続かなくなったところで璃那が叫んだ。
「トキくん!」
「は、はいっ?」
「キミってば、男の子の中の男の子だ!」
「いきなり何を言ってるんぐっ」
璃那は、大声で俺を褒めると同時に勢いよく抱きしめた。
このとき初めて、薄翠色の闇に襲われた。
いまでこそ逆転しているが、当時は璃那の方が背が高かった。
といっても、璃那が長身だったわけではない。
俺の背が同年代の平均身長より低かったのだ。
二人が並んで立つと、俺の頭のてっぺんは璃那の鎖骨の下くらいにあった。
それだけの身長差がある璃那に真正面から抱きしめられると、どうなるか。
必然的に俺の顔は璃那の胸に当たる。
かくして俺は途端にのぼせ上がり、鼻から出血して気を失った。
子供だったのだから当然だが、あのころの俺は若かった。



