「誰っ? ――あ」
誰も何も。
冷静に考えれば、このときこんなことが出来るのは一人しかいないのだが。
あまりにも突然のことでパニックに陥(おちい)って、本当に誰なのかわからなかった。
それでも俺は〝あること〟を手がかりに、背後にいる人物が誰なのかを察した。
「遅れてごめん、ルナお姉ちゃん」
「おお凄い。よくわかったねー、トキくん」
背後にいる人物の正体が璃那だと気づいてすぐ、素直に謝った。
しかし予想に反し、返って来たのは意外にも軽い調子の感心だった。
そして次の瞬間。
「でも」
「え? うゎっ!」
俺の視界を覆っていた両手で両肩をつかまれ、そのまま回れ右させられる俺。
それと同時にしゃがむ璃那。
俺たちは、たちまち向かい合わせになった。
「トキくん」
「……な、何?」
間近で俺を見つめる真剣な眼差しと、不意にそよいだ風で鼻先をくすぐられた黒髪の香りに、俺の心臓は大きく跳ねた。
しかし璃那は、そんな俺の異変に気づいたふうもなく、不思議そうに首をかしげて、言った。