「……あのさ」

「なにかな?」

逆光でもはっきりそれとわかる、彼女の花が咲いたような笑顔は、

「ちょっと近過ぎない?」

「そうかな」

お互いの鼻先が触れ合いそうなくらい、間近にある。

「近過ぎちゃイヤ?」

「そんなことはないけど……」

近過ぎるというより、ほぼゼロ距離だ。

「ならいいじゃない♪」

超がつくほどの至近距離で彼女の声が弾んだ、その直後。

「それにしたって適度な距離ってのが――むぐ」

圧迫感と暗闇が俺を襲った。

何が起こったのかまったくわからない。

圧迫感はなぜか頭部だけにあり、暗闇はうっすら翠色をしていた。

《 ああっ、なんてうらやましいことをっ! 》

闇の外から、アルテの悔しそうな〝声〟が聴こえた。

うらやましいこと?

……ああ、なるほどそういうことか。

おかげで、状況を客観的に把握出来た。

どうやら彼女が、自分の胸に俺の頭を抱いたらしい。

道理で、やけに温かくてやわらかい闇だなと思った。

嗅覚を意識すると、ほのかな石鹸の香りがする。

興奮気味のアルテとは正反対に、俺は自分でも不思議なほど冷静にこの状況を分析していた。