《 それにしてもここ…… 》
おもむろに柄先に立ち、アルテは眼下を見渡す。
《 本当に、灯りひとつ無ぇなぁ 》
そこに広がるのは、欠け始めの満月が照らす闇だけ。ネオンサインはおろか、人家の灯りひとつありはしない。
「人が造った灯りがひとつもないから、自然の明かりが映えるんだよ」
特にかっこつけるでもなく、かつて俺に向けられた彼の言葉を、そのままなぞる。
《 なるほど 》
真っ暗な空中に弧を描くように視線をめぐらせてから、アルテは深くうなずいた。
まだ彼女と出逢う前。
彼と初めてここに来て、目の当たりにしたペルセウス座流星群を、覚えている。
告白した夜に別れた彼女たちとここで眺めた十六夜月を、もう二度と忘れない。
忘れたくない。
記憶と決意を胸の奥にしまって、彼の言葉をもうひとつなぞる。
「月のない夜にここに来ると、まさに満天の星空だぞ」
《 それを聞くと、ぜひとも新月の夜に来てみたくなるな 》
当然だろう。
性格に光のない俺でさえそうなったのだ。
彼女も、彼女たちも。
ほかの人も猫も、きっとそうなる。
「そのうちにな」
素っ気なく答えると、アルテはこちらへ振り向いて顔をしかめた。



