「ぼくは……ときや」
「うんうん。ときやくんね。で?」
「う……」
あだ名を催促(さいそく)されていることはわかったが、このころの俺には、あだ名などなかった。
友達を作れなかったのだから、あるはずもない。
親や親戚(しんせき)が使っていた愛称というか呼び名はあったが、果たしてそれを初対面の相手に言ってもいいものかどうか、ルナに心を開いて大丈夫か、ためらいがあった。
俺が当時から人を遠ざけていたのは、暗い性格だけが理由ではなかったから。
しかし結局は、言った。
知って欲しいという思いが、言っていいかどうかという迷いより強かったんだろうと、いまは思う。
「ええと……親や親戚には、トキって呼ばれることも……ある」
「ん、わかった。じゃあわたしは、トキくんって呼ぶね」
ルナは微笑んで、二つ返事で快く受け入れてくれたのだが。
このあとに続いた言葉が衝撃だった。
「んじゃ、トキくん。これからは、毎晩、ここで会おう。ねッ」
「うん。――え、毎晩?!」
「うんっ、毎晩♪」



