「どの道、今すぐは無理だ。璃那の記憶が、というかルナが、璃那に受け入れられるまでは」

と、蒼依は言っていた。次の十六夜までには、たぶん。と。普通の記憶喪失と違っていて前例も無いので、確実にそうなるかはわからないけど、とも。

《 少なくとも一ヶ月は先の話か。大丈夫なのか? 余命いくばくもあるかわからないのに 》

「あと一ヶ月か二ヶ月でどうこうなるわけじゃないし、いくらかは長生き出来そうだ」

《 そうなのか? 》

「ああ」

こちらは、悠紀が預ってきたという、朱海さんからの手紙でわかったことだ。読んでいて、懐かしい記憶がひとつ、よみがえってきた。

そしてアルテに、俺がまだ小学生で、璃那と出逢うよりも前に。実の父親でツキビトの、古瀬樹(ふるせいつき)との話をした――。

《 ――なるほど。それなら確かに、いくらか長生き出来そうだな。今と当時とじゃ、医学のレベルが月とスッポンだしな 》

「そういうことだ」

どんな顔をして言ったのかわからないが、次のアルテの〝声〟は、いつになく弾んでいた。

《 次の月夜が、今から楽しみだ 》

朝陽に照らされて視界が開けた今も、線路の途切れは、まだ見えてこない。