ほんの一瞬、空間の揺らぎを感じ、それが収まったあと。目の前に月があった。
俺はルナと、再び上空に来た。璃那のワンス・ウィングに、一緒に並んで座っている。二人の他には、誰もいない。
「わたしの〝モメトラ〟って、蒼依の〝モメトラ〟とは違う?」
「どうだろう。あのときは、ふいをつかれて何がなんだかわからないうちに転移していたから、違いはわからない。それより、本当にもう時間があまりないな」
視線の先には、白い月。夜明けが近い。
俺はまっすぐ、ルナを見つめた。
「これだけ教えてくれない? 璃那はどうなんだ?」
「どうって?」
「璃那には、蒼依のような憤(いきどお)りはないのか。振った理由に対してだけじゃない。璃那は俺が振ったせいで俺との記憶を引き離された。そのことだって怒って当然じゃないか。なのに…… どうして笑ってるんだ?」
ルナは、やわらかく微笑んでいた。
「璃那は怒ってなんかいないし、わたしも同じだよ。記憶を引き離したのは失いそうになったからだけどトキくんのせいじゃない。あれは璃那のミス。トキくんを無理やり引き止めようとして罰(ばち)が当たったんだよ、きっと」
仮にそうだったとしても、そのきっかけを作ったのは俺だと言った俺にルナは「でも直接の原因じゃなかったんだから気にすることないってば」と笑顔で返した。
「それに」
「それに?」
「笑うに決まってるよ。ずっと逢いたかった人にまた逢えて、ずっと言いたかったことが言えるんだもの」
ルナの声はどんどん大きくなっていき、笑顔も、満面の笑みに変わってゆく。
「本当は璃那から言った方がよくて、わたしが言うのは反則かもしれないんだけどね」
そこでいたずらっぽく笑って、いったん声のトーンが下がる。
「いや、そんなことは――」
そんなことはないよと言い終えるのを待たずに、それは告げられた。