「まあ、それは確かにそうかも、言われてみれば。何でかな?」

「それはぼくに聞かれても……」

「あはッ、それもそっか」

それは、呪縛が解けたというより、まるで何かの魔法にかかったようだった。

そう思えるほどとても自然に、少女とは難なく会話が出来た。

たぶん、このときにはもう心のどこかで、少女に好意を持っていたのだろう。

「――ね、キミ」

「うん?」

「わたしは、りなって言うの。でも姉さんや妹は、ルナって呼ぶわ」

「ルナ?」

「そう。これはラテン語で、月っていう意味なんだって。りな姉さんは月が大好きだから、月をあだ名にしましょう。でも月やムーンじゃ女の子っぽくないから、ルナがいいいわって、妹がつけてくれたの。すごく気に入ってるから、キミもそう呼んでね?」

「えっ、あ、あの――」

そう言われても初対面なのに無理だよと伝えることが出来ないまま、ルナはどんどん話を先に進める。

「キミの名前は?」

「あ。えと……」

わたしも教えたんだから、君のも教えてくれるよね?

ルナの屈託(くったく)のない笑顔にそんな無言の圧力を勝手に感じて、俺は心の中で後退(あとずさ)りした。