朱海さんとの会話の一部始終を聞き終えて最初に口を開いたのは、璃那ではなかった。

「いかにも、魔女っ子もの好きな母さんらしい去り方ね」
「まったくだね」
「そんな冗談言ってる場合じゃないでしょ」

悠紀とルナが冗談めかして言ったが、蒼依だけは違った。

「いまの母さんとの会話、あたしにはほとんど要領を得なかったのだけど。結局のところ、トキが璃那姉さんを振った本当の理由は、子供のころのトキの疾患にある。っていうことなの?」
「え?」
「ああ。そういうことだ」

反応したルナを意識的に無視して、俺は蒼依の的を射た問いかけを肯定した。

「子供のころ、俺は先天性のある疾患のため、親元を離れ、独りで入院生活を送っていた。その疾患名は、漏斗胸(ろうときょう)」

「胸の中央にある胸骨や肋骨が漏斗状に陥没してしまう疾患よね。トキの場合は日常的な猫背がたたって、陥没具合いがひどくなってしまったのよね。ちなみに漏斗というのは、理科の実験で薬品をビーカーに移すときに使う道具のこと」

「ああ」

《 俺様もミヤコから聞いて知ってるぞ。そのまま放置しておくと、成長とともに心臓や肺を圧迫してしまう疾患なんだよな 》

「その通りだ」

「でも手術は成功して、肋骨は普通通りになったんじゃなかった?」

「俺もそう思っていたんです。でもそうじゃなかった」

「どういうこと?」

「漏斗胸の手術って、凹んだ肋骨を翻転(ほんてん)させるっていう大して難しくない手術なんでしょう?」

「その辺は症例にも寄りますが俺の場合はそうでした。いや、そのはずでした」

「そのはずだったって?」

「なかったんだよ。翻(ひるがえ)すべき部分の肋骨が」

《 「「「!」」」 》

やはり、ここまで言えばみんな気づいたようだ。当然だな。