このとき朱海さんは、上はマリンブルーのブラウスの上から白衣を羽織り、下は黒いタイトスカートとストッキングとパンプスといった恰好だった。こんな恰好をするのは理数系の女教師か女医くらいのものだ。

「なんか変? 兎季矢くん、女医さんって見たことないの?」

「ありますよ。俺の通っていた学校は、校医も養護教員も女性でした」

「なら、そんな珍しがることないじゃない。みんなこんなカッコだったでしょ?」

「ええ確かに。別に珍しがっちゃいません。でも、ここは学校でも病院でもないので。とりあえず、靴は脱いでください」

「えー? 宙に浮いてるんだから別にこのままでもよくない? 他に誰か見てるわけでもなし。それとも靴フェチなの?」

「違います」

とんでもなく飛躍した邪推に、声を大にしてきっぱり否定した。

「そういうことではなく、モラルの問題です。ここは日本家屋なんですから、たとえ宙に浮いていても室内では靴は脱いでください」

「このコスプレは、靴まで含めて完成してるんだけどなー」

「様式美よりモラルの方が大事です」

「意外と頭が堅いのね。ちなみにこのカッコは、娘たちの仕事のお手伝いをしていたからよ」

「元・婦長が女医のコスプレで手伝う仕事って、なんなんですか?」

「その辺は、明日娘たちに聞いてちょうだい」

「……ここでは教えてくれないんですか」

「お楽しみは、後にとっておいた方がいいでしょ?」

顔の横で人差し指を立ててウィンクする。

「まあ、それは同意見ですね」

それ以前に、実年齢を感じさせないカワユイ笑顔で言われてしまっては、反論の余地がない。

果たしてどういうお楽しみが待っていることやらと思ってはいたが、まさかメイドや巫女の恰好で現れるとは思ってもいなかったな。