安堵(あんど)した少女は、花が咲くように笑う。

「でも……」

そうするのがクセなのか、うつむき加減に口元を指で掻(か)きながら、少女は何事か考え込む。

そして、そこに小さなほくろを見つけた俺の視線に気づいた――のかどうかはわからないが、唐突に少女は顔を上げて、

「ここに来たとき驚いたでしょ、わたしみたいな物好きがいたことに」

照れの混じった苦笑いでそう言われて、俺は目を丸くした。

「わ、豆鉄砲に撃たれた鳩みたいな顔になった」

驚いてそんなことを言った少女が可笑しくて、思わず俺は吹き出してしまう。

それで呪縛が解けたのか、そのまま声をあげての大笑い。

人前でこんなに笑ったことは、そのときが生まれて初めてだったかもしれない。

「え、何? わたしいま笑えること言った? それともわたし自身が可笑(おか)しいって意味?」

「両方、かな」

「なんだとー? キミねー、初対面の女の子にそれはないんじゃない?」

「ごめんなさい。でもね、それ」

「え?」

何を指して『それ』と言っているのかわからなかったのだろう。

今度は少女の方がきょとんと、豆鉄砲をくらった鳩のような顔をする。

「ぼくとお姉ちゃん、いま初めて会ったんだよ? それも、こんなとこで。それなのにひとっつも驚かないなんて、おかしくない?」

「んー……」

ふたたび口元を指で掻きながら考え込むこと、数秒。

ちなみに『ひとっつも』というのは、全然という意味だ。