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ちなみに。その後、四十九日が済んだあと『これまで、娘たちがお世話になったお礼がしたい』と書いた手紙を寄越し、自らのグループが所有する建築会社の人手を割いて新たな家を建ててくれたり、法事の度に電報を寄越してくれたりしたことはあったが、彼が直接俺の前に現れることは、あの日以降一度もなかったし未だにない。

重い沈黙の中、そんなことを思い出していると。ルナがそれを破った。

「……それならそれで、あのときにそう言ってくれたらよかったのに」
「……そうかもな」

ルナからは、きっとそう言われる。だがこれは、俺が予想したわけではない。

そこで俺はひとつ、ルナに確かめてみた。

「もしあのとき璃那に言ったら『わたしは、幸せにしてもらわなきゃ幸せになれないような女じゃないよ』って言い返してきたかな」

これもまた、俺が予想したことではない。

どちらも、俺以上に璃那をよく知る人物の予想だ。もちろんルナのことも、誰よりもよく知っているだろう。

「そうだね、絶対にそう言い返してたと思う」
「そうか……」
「もしかして、それがわかってたから言わなかった?」
「いや。そうじゃない。朱海さんがそう言ってたんだ」
「母さんが言ってた……って!」

その事実を知ったルナは、瞬く間に俺に詰め寄った。

「トキくんキミ、記憶を取り戻してから母さんに会ったのっ?!」
「あ、ああ……」

〝モメトラ〟で間合いを詰められるのは、何度体験しても心臓に悪い。きっと俺の反応を面白がってわざとやっているのもあるだろうが、その度に心臓が飛び出そうになるこっちの身にもなって欲しい。

「昨日の電話の直後、朱海さんは突然どこからともなく『理由を教えてくれない?』って言ってから、俺の目の前に現れたんだ」