話を戻すぞ。――葬儀の場に姿を現した風貴さんは、香典帳に署名した自分の名前に驚いた俺を一瞥(いちべつ)して、その場を去った。

しかし葬儀のあと、彼はひとりでいた俺のところへ来た。というよりもたぶん、俺がひとりになるのを待ってたんだろうけどな。

風貴さんは俺が列席の礼を言うより早く、こう言い放った。

『兎季矢くん。君は幸せに出来るのか? 家も家族も財産も失った今の君に、誰かを幸せに出来ると思っているのか』

その時の俺は、返す言葉が見つからなかった。

『こんなときに、不躾(ぶしつけ)にこんなことを言ってすまないとは思っている。
事情は朱海さんからすべて聞いた。
本来なら、娘が選んだ相手にこんなことを言うつもりはなかった。
だが、このような事故が起きてしまった以上、私は娘の幸せを願うひとりの父親として、言わないわけにはいかない。
よく考えて、君が自分で答えを見出し、それを娘たちに告げてやって欲しい。
君が娘の、璃那の幸せを心から願うのであれば。
――話は、それだけだよ』

そう言うと、風貴さんは俺の返事も聞かぬうちに、踵を返し、去って行った。

――そうして結果的に俺が出した答えは、みんなの知っての通りだ。