むーんりっと・りゆにおん(仮)



俺との記憶を失った璃那のことは、彼女の母親が看(み)ていた。つまり師弟揃って、璃那とルナのサポートをしていたということか。

弟子の方がアルテの感覚を通していまこの場を視(み)ているかはわからないが、師匠の方は間違いなく、月を通してこの場を視ている。さきほどの不自然なそよ風が何よりの証拠だ。

「璃那がこの企画を考えていたのは、いつから?」
「事故の日。トキくんが店を出ていった直後だよ」
《 それはさすがに嘘だろ 》
「嘘じゃない本当だよ。死に別れじゃない限り、再会のチャンスはあるもの。もっとも、あの事故でトキくんがわたしとの記憶を失ってしまったのは、誤算だったけどね」
「…………」

これには、驚きを隠せなかった。璃那があのときすでに、再会する機会を考えていたなんて。

「じゃあ、あのバイク事故は?」
「……その質問は、どういう意味かな。何か不思議な点でもあった?」

ルナの返答には、少しばかり間があった。質問の意図をはかりかねているというより、俺がどこまで気づいているかを試しているような、そんなニュアンスが感じられた。

「あのとき。璃那が駆けてきたことと、あの場にバイクがやって来たこと。どちらも不自然だった」
「不自然って、どこが?」

「璃那は〝モメトラ〟が使えるだろ。あの日は満月だったし、空に月も出ていた。人目もなかった。俺のところまで移動するのなんて、一瞬あれば充分だったはずだ。なのにわざわざ、走ってきた。それにあのとき、バイクのエンジン音は、遠くから近づいてくる感じじゃなかった。突然、近くから感じた」
「…………やっぱり、気づいていたんだね」