こうやって教室で挨拶を交わして、笑って過ごしていることが幸せだということに、ここに来る前は気づかなかった。
ここに来て、失くしたものも多いけれど、かけがえのないものもできた。
あぁ、やっと。
天国のお母さんとお父さんに言える。
二人の分まで生きるよ、って。
朝のホームルーム後。
一時間目は移動教室のため、咲間さんと廊下を歩いていた。
「あのさ、あたし、矢崎さんのこと名前で……」
「あっ!」
「……どうしたの?」
突然声を上げたわたしに、咲間さんは話を途中でやめて首をかしげる。
腕の中の物を三度確認したが、やっぱりない。
「筆箱がない……」
腕の中には教科書しかなく、うっかり筆箱を忘れてしまったらしい。