皆瀬くんは、突然のことに少し驚いてる様子だった。
あ、あれ?
だんだん恥ずかしくなってきた。
前髪をいじって、真っ赤な顔の上半分に影を落とす。
「え、えっと、その……ま、また、ね」
語尾が消えかけた『またね』の挨拶。
聞こえたかな。
届かなかったかも。
失敗した……。
落ち込んでいたわたしの耳が、小さな笑い声を拾った。
「うん、じゃあね、矢崎さん」
皆瀬くんはそう言って、とても切なそうに目尻を下げた。
“あのときの少年”の面影のある微笑みに、胸が高鳴る。
なぜだろう。
八年前のときみたいに、皆瀬くんが泣いてるように見えたのは。
泣いてなんかいなかったはず、なのに。
バタン、と閉じられた扉の音が、やけに虚しく保健室に響いた。