それに、後悔はしてない。
初恋は、たったの一瞬で。
“あのときの少年”には、「好き」と言えなかった。
だけど、環くんには「好き」を送ることができた。
それだけで、恋をしてよかったと思える。
すると、依世ちゃんがギュゥ、とわたしを抱きしめた。
「い、依世ちゃ……?」
「頑張ったね、莉子」
抱きしめる力が、わずかに強まる。
わたし、頑張れたのかな。
フラれたけど、頑張った、よね?
拭いきれていない悲しみが蘇って、涙腺をゆるませた。
『泣いてもいいんだよ』
逃げ出したあの日、贈ってくれた環くんの言葉が想起した。
瞳が、潤んでいく。
滴った涙は、依世ちゃんの肩に落ちて、雨雫の跡と混ざっていった。



