八年前、春。





春休みを利用して、父方の祖父母の家に家族で遊びに行った、ある麗らかな日。


のどかな田舎町にある、小さな公園。



そこで、わたしはある少年を見つけた。




ベンチと滑り台しかない寂れた公園の真ん中に植えられた、大きな大きな桜の木をぼんやり眺めている、一人の少年。



小……いや、中学生、かな。誰なんだろう。


小学二年生だったわたしからしたら、少年はとても大人びて見えて。


思わず、見惚れてしまった。



まだつぼみの多い桜の木にそっと手を伸ばす少年の横顔を、公園の入口付近で黙って見つめる。



桜よりもずっと綺麗で、儚くて。


今にも、消えてしまいそうだった。



なぜだろう。


少年は、何も言っていない。


何も、声を出してはいない、のに。



助けて、と


寂しい、と


泣いているような気がしてならなかった。