「あの人たちが動き出さなければ平和だったんだよなあ……」
綾美はもぐもぐと口を動かしながら言う。始まってしまった、と少し憂鬱になる。
綾美の話はどれも面白い。友達がなにかで失敗した、などという話では、まるで自分を見ているような気持ちになって本当に笑える。
だけど、中学の頃の芹沢くんや大野くんの話だけは、どうしても想像できないし、好きになれない。昼休みに会っていた芹沢くんや、踊り場で芹沢くんと話していた大野くんの姿とあまりに違いすぎる。
そのせいか、想像できないだけでなくほとんど信じられなくなっていた。
「いや、別に喧嘩とかはしてなかったんだけど。なんていうのかな、空気を乱すっていうかさ。……わかんない?」
「ああ……まあそういう人はいるよね。私の学校にはいなかったけど……」
「なんかさ、わかんじゃん。いるだけで要らぬ緊張感が漂うっていうか」
「わかるよ? 無駄に厳しい先生みたいな人でしょ?」
だけど、それが芹沢くんや大野くんとなると、今の彼らと違いすぎる。芹沢くんは廊下で会えば笑ってくれるし、挨拶だって向こうからしてくれる。
綾美から聞く芹沢くんは、絶対にそんなことはしない。
綾美から聞く芹沢くんと、私が今まで話していた芹沢くん。この違いはいったい なんなんだろう。
前にも思ったけど、中学を卒業してから高校に入学するまでになにかあったのだろうか。だとしたらだ。彼らに一体なにがあった。
もうだめだ。考えれば考えるほど疑問が増えるばかりで、なにもわからない。



