想い舞う頃〜最初で最後の恋〜


綾美は家に入ると、リビングらしき部屋からお菓子が盛られた皿やグラスののったお盆を持ってきた。

飲みものはもう部屋にあるらしく、「早く行こ?」と促されて綾美の部屋へきた。

自分の部屋とは違いすぎるこの部屋にも、少しずつだけど慣れてきた。

今日も「そこ座って?」と言われ、指で示された場所に座る。

「えーっと。アップル、グレープ、オレンジ。どれがいい?」

飲みもの、と付け加えられ、「じゃあアップルで」と答える。


綾美は2つのグラスをテーブルに置くと、片方にアップルジュース、もう片方にはグレープジュースを注いだ。

「はい」という声と共に、アップルジュースの注がれた方が差し出される。

少しして「いただきます」とグラスに触れると、それ自体が冷たくて驚いた。咄嗟に手を離した私を見て、綾美は噴き出した。

「ハハハッ。冷たくていいでしょ? ちょっとやってみたかったの、グラスを冷やすって」

「ああ、そうなんだ。飲食店みたいだね」

グラスを冷やしてみたかったからといってここまで冷やす必要はないと思うけどと思いながらも、冷えたグラスの中身を一口飲んだ。


「そうだ。昨日、全然 宿題やんなかったね」

綾美はテーブルに並んだお皿から一口サイズのチョコレートを取ると、すっかり忘れてたと笑った。

「大丈夫だよ」

ノートは、まだどれも新品並みの綺麗さを保っているけれども。

「綾美の充実した中学校生活も覗けたし」

「あの学校面白いのよ。さすがあたしが3年間いた学校って感じ。あたしの面白さが染み付いてる」

まあ中には不良もいたけどね、と付け加えるように言いながら、綾美はチョコレートを口へ放った。


不良とは、芹沢くんと大野くんのことだろうか。ああいう話は好きじゃないんだよなと思いながら、私は冷えたグラスの中身をもう一口飲んだ。