綾美の思い出話が終わった頃には、夕方の5時半を過ぎていた。
綾美の中学校生活はかなり充実していて、私もどんどん質問して話を盛り上げた。
家に着いたのは、帰り道にコンビニに寄ったこともあってか6時をかなり過ぎた頃だった。
お母さんにはもちろん、「綾美ちゃんの家に迷惑でしょ」と怒られた。
「コンビニ行ってたから……」という言い訳も、お怒りのお母さんには聞こえもしなかった。
お説教が長引きそうだったので、私は人生で数回しかとったことのない珍しい行動をとった。宿題をやるために、自分から部屋へ行ったのだ。
しかし、勉強開始から約5分。何問かは解けていてもいいはずなのに、ノートは真っ白のままだ。どの教科をやっても、それこそ1ミリもわからない。
どの色のノートも、最初の1ページすら汚れていない。なにかを書いた跡もなく、どれも新品並みの綺麗さだ。
「ああもう。わっかんない」
髪の毛を乱して大声で叫ぶと、シャーペンをテーブルに放って大の字に寝転んだ。夜、寝るときよりも天井が遠く見える。
ゆっくり目を閉じると、秒針が刻む一定のテンポが耳に入ってきた。一度リラックスしようとその音に集中していると、それを邪魔するようにお腹が鳴った。
ぱっと目を開けて勢いよく起き上がり、悲鳴を上げたお腹に手を当てる。宿題に集中できなかったのはこのせいかもしれないと思った。
きっとそうだと言い聞かせて部屋のドアを開けると、下から美味しそうな匂いがした。今日は生姜焼きだ。小さくガッツポーズをすると、私は騒がしく階段を駆け下りた。



