入ってきたのは、30代後半から40代前半くらいに見える男の人だった。紺色のスーツにグレーのネクタイという無難な出で立ちで、こちらにも伝染してきそうなくらいの緊張感をまとっている。
特にこれといった特徴はないけど、私の嫌いな小うるさいタイプではなさそうだ。
彼に気づいた生徒たちが一斉に静かになり、他の席に行っていた5〜6名の生徒は自分の席へ戻った。
決して気の強そうな先生には見えないので、この人にもそんな力があるのだなと失礼なことを思ってしまった。
だけどそれは彼自身も思ったらしく、彼の顔に一瞬驚きの表情が浮かんだ。
彼は表情を戻して教卓の前に立つと、一度 深い呼吸をした。そして私たち生徒に背を向け、黒板に文字を書き始めた。不思議なくらいに静かな教室に、黒板とチョークが当たる音だけが響く。
黒板に文字を書く音が止んだと同時に彼はこちらを向き直った。黒板に書かれた『小嶋 泰久』という漢字と、その隣の『こじま やすひさ』という丁寧なふりがなが見えた。
「ええ……今日からみなさんの担任になります、小嶋 泰久と申します」
小嶋はそう言うと、自己紹介ではあまり言わないようなことまで話し始めた。
小嶋の話を聞きながら、嫌いなタイプではないどころか、少しふざけた人でむしろ好きなタイプかもしれないと思った。



