「お、笠原」
掲示物を眺めていると、男性の声が聞こえた。廊下で会うと、「次の授業なに?」「頑張ろうね」なんていう言葉を交わす、鼻にかかった独特な声だ。
声の聞こえた右側を見ると、その声の主、芹沢くんがこちらへ歩いてきていた。
「芹沢くん」
「今日は1階?」
「うん。上は暑くて」
私暑いの嫌いだからさ、と笑うと、「俺も」と芹沢くんも笑った。
「ああ……そろそろ夏休みだね。なんか早い」
「ああ、だな」
「なんか、寂しくなるね」
掲示物へ視線を戻しながら言うと、「なんで?」と問われた。
「こうやって会うこともなくなるじゃん。宿題も半端ない量出されるし」
あんなに宿題 出されたら休みじゃないよ、とため息をつくと、「宿題、なにが一番嫌い?」と訊かれた。
「んー……そりゃ全部だけど、やっぱ読書感想文かな」
「へえ」
意外、とでも言うように芹沢くんは言った。
「読書感想文だけは本当に嫌い」
あまり長くない本を求めて行っても、美咲ちゃんはいつも無駄に分厚い本を薦めてくる。それらの本はどれも、私の読む速さだと読み終えるだけで夏休みが終わってしまうのではないかというくらいの厚さだ。
「そうだ。3組、次なに?」
「……数学?」
「ええ、嫌だね」
私はなんだったっけ、と思いながら「頑張ってね」と言うと、「お前もな」と言われてしまった。否定はできない。