家に帰ってからの1日は、宿題と格闘したり夕飯を食べたりしたらあっという間に終わってしまい、再び朝を迎えた。

すでに葉をつけていた桜を、昨日も葉っぱついてたっけと思いながら見ていると、半日分の授業は終わった。

私がいつもと同じように散歩を始めたように、綾美はいつもと同じように昼寝を始めた。


昨日の昼休み、明日もここへ来るのかと踊り場で訊いたとき、芹沢くんが頷いたのを覚えている。

私の足は、迷わずそこへ向かった。昨日と同じくらいの時間に階段付近に着き、踊り場へ下りようとした足が止まったのは、そこから男子の声が聞こえたからだった。


「そう。ないっ、ない、って騒いでたのに、結局制服のポケットに入っててさ」

「お前ほんっとそういうとこあるよな」

片方は芹沢くんの声だけど、もう片方はわからない。初めて聞く声だった。しゃがんで姿勢を低くし、壁のようなものに隠れて下の様子をうかがう。

うわっ、と出そうになった声を呑み込んだ。

下にいたのは、笑顔の芹沢くんと大野くん――笑顔の“大沢コンビ”だった。遠くからは何度か見たことのあるツーショットも、近くで見るとすごい迫力だ。

2人して、綺麗な顔と独特な声をしている。片方の声が大野くんのものだとわかると、その声も聞いたことがあるような気がした。

大野くんの声は、聞けばすぐにわかるというくらい独特。どちらかと言うと高い方になるのかもしれないけど、決して変ではなく、アニメのイケメンキャラのような声も出せそうだ。

話しているだけで目立つ2人、それが“大沢コンビ”だ。こんなだもん3組の男子はこの2人しか見ないよね、と心の中で苦笑した。


「じゃあ、僕は先に戻ってるね」

「ああ」

そんな2人のやりとりのあと、階段を下りていく足音が聞こえた。

「……笠原」

ふいに芹沢くんがこちらを見て、目が合ってしまった。

普通に立っていて、というのならいいけど、下手に隠れて見つかって、というこの状況は恥ずかしすぎる。