少しすると綾美は、「あっ」と小さな声を漏らし、満面の笑みで視線の先にいる誰かに手を振った。

その隣の私の視界では、咲菜が満面の笑みでこちらに向かって手を振っている。

だけど綾美は咲菜に振っているようではなく、咲菜は私に振っているのかなと思い確認するように咲菜に手を振ってみた。

だけど咲菜の視線の先にいる人物は私ではなかったらしく、恥ずかしくて顔が少し熱くなった。

なるべく自然に手で頬を冷やしながら、ちらりと芹沢くんへ視線を移した。こちらを見ている芹沢くんは、昼休みとはまるで違う目をしていた。

なんだか冷たくて、なにかを嫌がっているような目。まるでそばを飛ぶハエを見るような、そんな目だ。

「もう最っ高」

綾美は、隣で目をキラキラと輝かせ、幸せそうな声で言った。

咲菜は綾美に振ってたのかな、と思い「咲菜?」と尋ねながら綾美の顔を見れば、綾美は少し迷ったように間を空け、「そうっ」と嬉しそうに言った。

同性に、見た目だけでここまで言わせるなんてさすが咲菜だなと少し羨ましく思った。私には、どこを探しても特徴と呼べるものはない。

「はあっ。これから4日、なんか頑張れそうな気がする」

綾美は3組の方を穏やかな目で眺め、軽く握った手を制服のリボンの辺りに持っていった。

「……そう」

綾美にはなるべく笑顔でそう返し、再び咲菜へ視線を移す。

残りの1週間を頑張ろうと思わせてくれるほどではない気もするんだけどと思ってしまうのは、自分でも気づかない咲菜への嫉妬心があるからなのだろうか。

それとも、結構な間 一緒にいるから、咲菜の癒し効果に耐性ができてしまったか。

いや、そもそも咲菜は他人を癒すようなキャラではない。かわいい外見の裏に、とんでもないブラックな部分も持っている。


いろいろ考えながら女子と話す咲菜を凝視していると、咲菜は会話を止め、こちらを見た。

今度は間違いなく私に手を振ってくれたので振り返すと、咲菜と話していた女子と目が合い、お互い軽く頭を下げた。