久々に教室までの道を本気で走り、肩で息をしながら席に突っ伏す。だけどこんなことをしている暇はない。

次の授業は、確か田中というはずのうるさい先生が担当だ。彼は自分が教室に入ったとき、すでに生徒全員の机に授業に必要なものが用意されているのが当たり前だと思っている。

生徒にどれだけのプレッシャーを与えているかわかっているのだろうかと思いながら、教科書やノート、ペンなどを机に出す。

ようやく呼吸が落ち着いてきた。


「愛、どこ行ってたの。めっちゃ呼吸荒いんだけどしてんだけど」

斜め後ろから小馬鹿にした綾美の声が言う。振り向くと、彼女は机の上にボールペンを置いていた。

「ちょっと遠くに行ったら迷ったの。やっとどこにいるかわかったらチャイム鳴るし。もう、廊下猛ダッシュ」

嘘とも本当とも言えない、絶妙な言葉を並べながら苦笑する。あの踊り場は、確かに教室からはだいぶ遠い。だけど迷うなんてことは全然なかった。


「やっぱり愛、面白いよね。あ、愛の特徴当てていい?」

「……えっ。まあ、いいけど」

綾美に自分はどう映っているのだろうと思いながら頷くと、綾美はニヤリと口角を上げ、いろいろと並べ始めた。

「運動神経悪め、方向音痴に機械音痴。勉強とかほんとに勘弁、平和が好きで喧嘩もほんと勘弁。……どう?」

「2つ……多くて3つっすね。合ってるの」

運動神経は確かによくはない。勉強は嫌いだし喧嘩もしたくないけど、方向はわかる方だと思っている。機械の扱いもそんなに苦手ではない。

綾美にはそんなふうに思われていたのかと複雑な気持ちになった。

「もう。全然合ってないじゃん。嘘ついた?」

どうしても私をそういう人だと思いたいらしい綾美に、「なんのために嘘つくの」と返したところで、小うるさい先生が入ってきて、すぐに授業が始まった。