「笠原な。……あい、だったんだ」
「うん、そうだよ?」
「まい だと思ってた」
「まい?」と聞き返す私に、「失礼」と言って浮かべた恥ずかしそうな笑顔は、少し前に見た笑顔とはまた少し違い、今回はかわいらしく見えた。
いや、と自分にストップをかける。今は芹沢くんの笑顔に見惚れている場合じゃない。
「私の名前、聞いたことあるの?」
「何回か」
綾美や咲菜と話していたのが聞こえていたのかなと自分なりに納得した。
「ふふっ、なんか嬉しい」
素直に言うと、芹沢くんはまたかわいらしく笑った。つられてさらに笑顔になってしまう。
「ねえ」
笑顔で芹沢くんの小さな顔を見上げると、芹沢くんは優しい目で私を見た。
綺麗なその目に吸い込まれてしまいそうになるのを抑えながら、「明日もここに来る?」と訊いてみた。
少し迷うように間を空けて、「うん」と芹沢くんが答えてくれたところで、昼休み終了を告げる少し意地悪なチャイムが鳴った。
それを聞くと芹沢くんは、「戻るか」と言って短い階段を上った。私も続く。
2人で廊下に上がり、並んで教室へ戻りかけたところで、私は芹沢くんの背中に「私あっちから戻る」と叫びながら、1先ほど上った1階に続く階段を駆け下りた。
忘れていたけど、芹沢くんと教室に戻るなんてリスクが高すぎる。目撃情報をばら撒かれたら最悪だ。誤解を解くのにとんでもない時間が掛かる。



