これからはなにを見て50分の授業を乗り切ろうかと考えながら歩き出し、しばらくすると西階段に着いた。

踊り場なんて、昼休みなら結構 生徒たちが溜まっていそうなイメージだけど、教室からだいぶ離れたここはそうじゃない。

踊り場に下り、壁にもたれて足元を眺めた。ここにくるまでに、芹沢くんには会わなかった。

もたれる壁の上には縦に長い窓が何枚かあり、そこから風の音と、たまに鳥の声が聞こえてくる。

時々聞こえる鳥の声に耳を澄ませて目を閉じていると、風の音に消えてしまいそうな、静かな足音が聞こえた。

ゆっくりと目を開けて顔を上げると、先ほど下りた階段の上に芹沢くんの姿を見つけた。ぴくりと目が大きくなったのが自分でもわかる。

「芹沢くん……」

短い距離の先にいる芹沢くんにも聞こえないような声で呟くと、芹沢くんは「どうも」と会釈してくれた。

驚きのような喜びのような、そんな気持ちを隠せないままで同じように返すと、芹沢くんは静かに階段を下りてきた。