学校での時間も案外早く過ぎ、昼食と散歩の時間、昼休みになった。
「5時間目は英語かあ……」
頬杖をついてお弁当の中身を箸でいじる綾美が最高に嫌そうに呟く。そしてため息をつくと、箸をそっと机に置いた。
「英語なんか、わかるわけないじゃん。あたしらはハイパー純粋な日本人なんだからさ?」
両手を軽く広げ、熱く語る綾美は私に共感を求めてきた。
少しずつ聞き手でいるのが上手くなってきた私は、「そうだよね」と返し、水筒の中身を一口飲んだ。
「もうね、あたしがわかる英語と言ったら、最近流行りのー、VR。あれがなんの略かってぐらいだもん」
「ああ。あれだよね、その場にいるような――ってやつ。なんか、特殊なカメラで撮ってるって聞いた」
「みたいだね。“バーチャンリアリティ”ってやつね」
「ええっ、バーチャン? バーチャルでしょ? 私が間違ってるのかな……」
バーチャンリアリティ――聞いてしまうと少し興味をそそられるけど、たぶんここまでは流行らない気がする。
「ああもう。こんなんだもんさ、英語なんかできるわけないじゃん」
綾美は苛ついたように綺麗な髪の毛を掻き乱した。
「うんうん。できない できない」
綾美への言い方が冷たくなってきたのに気づきながら、私は今朝も会ったウィンナーをかじった。
「……よし、あれだな。お弁当食べ終わったら、あれ調べるわ」
超ナイスアイディア、あたし最高、と綾美は自分を褒めまくった。
「なに調べるの?」
「“私は英語がわかりません”と、“私は英語が話せません”を、英語でなんて言うか」
ははっ、と私は苦笑した。
「まあ、綾美らしいね」
ただ、それだけの英語が話せるんなら、普通に会話ができると思われるに違いない。
それで増えるのはおそらく、綾美の英語に関する知識ではなく、昼休みに漏らす愚痴のバリエーション。
これからの昼休みが綾美の愚痴聞きで終わってしまいそうだ。



