想い舞う頃〜最初で最後の恋〜


遅刻の心配もなく、穏やかな気分で教室へ入った。小嶋のいない教室には、あちこちに固まった生徒たちのいろいろな話し声が混ざり合っている。


「綾美。おはよ」

自分の席に鞄を置くと、斜め後ろの席で携帯をいじる綾美に声を掛けた。

この学校は校則が緩い。携帯は授業中にいじらなければ大丈夫だし、もちろん時計も大丈夫。さらに、普段はスカートの長さにもそんなにうるさくない。

だから綾美のような生徒たちは、授業中以外は携帯をいじり、スカートは短くして、腕時計はそこそこ派手なものを着けている。


「おはよー」

綾美は一度顔を上げて感情のない声を返すと、再び携帯の画面へ視線を落とした。少ししてあっと声を出す。

「山田のナオくんたち別れたでしょ」

綾美は少し嬉しそうに言うと、携帯の画面を見たままにやりと不気味な笑みを浮かべた。

「……ああ、テレビでやってたね」

私が言うと、綾美はふんっと鼻で笑った。

「だからやめときゃよかったんだよ」

あの女が釣り合うわけないじゃんとかなりひどいことを言いながら、綾美は再び不気味な笑みを浮かべた。


綾美は、その俳優――“山田のナオくん”のファンだった。

彼は20代後半で、クールな雰囲気を持つ人気俳優。

数年前、ドラマで夫婦役で共演したことをきっかけに2歳年上の女優と結婚したが、数日前に離婚を発表した――と朝の情報番組でアナウンサーが言っていた。

綾美のように、もともとあの2人は似合わないと感じるファンと、ドラマが現実になったと思っていたのに、と残念に思うファンに大きく別れ、ネットの世界はかなり賑やかになっている。


「しっかり者同士でいい感じだと思ったんだけどね」

私が言うと、綾美はまたも鼻で笑った。

「いい感じ? んなわけあるかい。あの女にナオくんはもったいないわ」

「はいはい」

「よーし、ホームルーム始めるぞ」

綾美に苦笑を返したところで、私の中では担任というよりも笑い担当である小嶋が教室に入ってきた。