マイペースなお父さんがやっと手洗いや着替えを済ませ、リビングに家族全員が揃った。
いただきます、と言うと同時にスプーンを持った。大きめの一口を頬張る。幸せが全身を満たす。
お母さん曰くとっておきの隠し味が入っているらしいが、私もお父さんも、その隠し味がなんなのかは知らない。隠し味だからとことん隠すのだとお母さんは言っていた。
「あっ、そうだお母さん。今日ね、昼休み、話しちゃったのっ」
「……話した?」
私が最高に高いテンションで話すと、お母さんは頭の上に疑問符を浮かべて聞き返した。
「芹沢くんとっ」とハイテンションのまま付け加えると、お母さんは納得したように大きく頷いた。
「すごいじゃん。なに話したの?」
「あ、いや、それは忘れちゃったけど……」
「あっ、そう」
お母さんは、そんなもんだよねとでも言うように頷き、カレーライスを掬ったスプーンを口へ運んだ。嘘だ。いくら私でもちゃんと覚えている。
ただ、廊下で会っていつも廊下にいるのか尋ねただなんて言ったら、お母さんは無理矢理にでもラブストーリーへ発展させる。
別にそれは構わないけど、終わらせてもらうのが大変だからなるべく避けたい。
「愛、学校楽しいのか」
お父さんが、どこか安心したように呟いた。
「超楽しいよ?」と返せば、次は「そうか」と呟いた。
「……愛にも、そのうち彼氏とかできんのかなあ……」
その次は決して明るくない声で言い、お父さんはカレーライスを口へ運んだ。
「なによ。嬉しいことじゃない。それともなに? かわいい かわいい愛娘が自分だけのものじゃなくなるのが嫌なわけ?」
私がおちょくると、お父さんは「あん?」と威嚇してきた。
「なに言ってんだオメ」
「ねっ? お父さん愛のこと大好きだもんね?」
「ああ、ごめん。素敵な素敵な片想い」
最後にもう一度おちょくると、私は一気にカレーライスの残りをなくした。



