これはチャンスだ、なにか話せ、と悪魔とも天使とも呼べない自分が叫ぶ。
「ああっ、のっ……」
要らぬものをたくさん含んだ、同じ学年の生徒を呼んだとは思えない私の声に、芹沢くんは無言で優しい視線を向けた。
「芹沢くん、は……その、いつも廊下にいるの?」
あまりに不自然な自分の言葉に顔を熱くしていると、芹沢くんは小さく笑った。
恥ずかしさから下に向けていた顔を上げると、視界には綺麗すぎるほどの芹沢くんの笑顔が現れた。それに見惚れてしまったのを隠し、なに?と問うように芹沢くんの笑顔を見つめた。
芹沢くんはそれには触れず、実際に訊いた質問にだけ答えた。
「基本 教室にはいないかな」と。
なぜかその言葉が、綾美の言っていた言葉と重なった。芹沢くんはあんな人じゃないと信じているはずなのに。
「……あの、普段は? 授業中……とか」
失礼な質問に、芹沢くんは驚きと問いが混ざったような表情で私を見た。
「ああ、なんでもない。ごめんね? 変なこと訊いて」
私が謝ると、芹沢くんは「いや、全然」と優しく言った。
「とりあえず授業中はいるよ」
「あっ、そうだよね。そうだよね、うん」
やはり、綾美がくれた2人の情報は嘘だったのだろうか。思いかけて、いや待てと自分にストップをかける。綾美は、私に2人に関する嘘を言ってなんの得をするのだ。
綾美の言葉の真偽を確認したいところだけど、さすがに中学の頃はどんなふうに過ごしていたのかなんて訊けない。初めてこんなにちゃんと話すのに、そんなことを訊くなんてちょっとおかしい人だ。
「……ええと、じゃあ昼休みはこの辺にいるんだね?」
「ああ」
芹沢くんは一言で答えると、その日によるけどと付け加えた。
「そっか。じゃあ……ありがとう。バイバイっ」
笑顔で手を振ると、芹沢くんは一瞬、驚いたように目を見開いた。そして少し恥ずかしそうに、だけど確かに笑顔と呼べる笑顔で、小さく手を振ってくれた。
芹沢くんのその笑顔は、とてもかわいらしく、とても綺麗だった。



