想い舞う頃〜最初で最後の恋〜


「咲菜おはよっ」

「おはようっ」

私たちが挨拶を交わすと、咲菜のお母さんは「先に行ってるよ」と残して体育館へ向かった。咲菜は「はーい」と軽い返事を返す。


「咲菜のお母さん、いつ会っても綺麗だよね」

体育館へ向かう華奢な後ろ姿を見送りながら、無意識に呟いた。

「いやいやいや、あんなの鬼だよ、鬼」

あんな綺麗な人からだもん咲菜みたいな子も生まれるよね、と考える私を、咲菜は思い切り否定した。

「えっ、そうなの? でもそれなら――」


それならうちのも負けてないよと言いかけて言葉を呑み込んだ。本人がどこで聞いているかわからないからだ。私のお母さんは変なことばかり聞こえる厄介な耳に加え、変なタイミングで現れる特殊能力を持っている。


「ああ、咲菜ちゃん」

お母さんが入ってきて、私はやっぱり出たと思ったと同時に、もしもうちのも負けていないだなんて言っていたらと考え、恐怖を覚えた。

「おはようございますっ」

我が家の鬼の嬉しそうな声に、咲菜は勢いよく頭を下げた。

お母さんは小さく笑うと、「これからもよろしくね」と咲菜の肩を叩いた。

そして、「藤井さんもう行っちゃった?」と独り言を呟いて体育館へ向かった。


「あ、クラス表見た?」

お母さんの後ろ姿を見送ったところで咲菜に尋ねた。

「いや、まだ。ウチもきたばっかなの」

「あっ、そうなんだ。じゃあ行く?」

「そうだね」と頷いた咲菜と共に、クラス表の前に群がる人々の方へ歩き出した。