日本語の恐ろしさを改めて感じたあとは、日課にした散歩を始めた。綾美は、復讐の方法を考えると言って教室にいる。

今日の散歩も、目的地はない。さらに今回は、特別歩きたい気分でもない。おまけに私は、日課と決めたからといって毎日やらねば気が済まないような完璧主義者でもない。

つまり、こうして歩く必要もないのだが――。こうして歩いていたら、今日も芹沢くんに会えるかもしれないという期待のようななにかに動かされた。

まともに話したこともない、名前なんてこちらしか知らないような人なのに、少しだけ、友達になりたいという気持ちがある。

綾美はどう思っているかわからないけど、私は完全に芹沢くんをいい人だと思っている。本当に悪い人なら、友達なんて作らないだろうという考えが浮かんだ。

芹沢くんには、大野 奏という友達がいる。それも、綾美曰く中1の頃から。大野くんは、自分から人に近づいていくような人には見えない。控えめで、人見知りの激しそうな人というイメージだ。

きっと、最初の謎というイメージは、あの容姿のせいだ。髪の毛と制服は真っ黒で、顔は体調が気になるくらい真っ白では、誰だってミステリアスな雰囲気は出るだろう。


2人が一緒にいるようになったのは、芹沢くんがきっかけだと思っている。

クラスの中で友達もいなくて、独りだった大野くんに芹沢くんから声を掛けて仲よくなった、というのが私の勝手な想像だ。

もしもそれが合っていたら、私の中では芹沢くんはかなりいい人だ。そのイメージが離れなくて、どうしても芹沢くんが悪い人というふうには思えなくなっている。