空のお弁当箱をなんとか埋め、歯を磨いて顔を洗って、ドアを壊す勢いで玄関を出た。チョコバナナトーストの匂いを嗅がせるお母さんをここまでひどい人間だと思ったのは初めてだ。

家を出る直前に目を向けた時計は、8時15分くらいの時間をさしていた。約半分の時間で着くかはわからないけど、久々に本気で自転車を飛ばした。

普段とほんの少し違うこの通学路には、ここしばらく降っていなかった雨が降っている。お弁当を作っている間に聞いたお母さんの話によると、朝の6時頃から降り出したらしい。

道は、普段なら家の敷地を出てすぐのところを右に曲がるのを、今日は左に曲がった。右に曲がるとそこそこ急な上り坂があるのに対し、左に曲がったこの道には、上り坂も下り坂もない。

上り坂しかない道を進むなら、下り坂はないけど真っ直ぐな道を行く方が少し早く着くと思ってこの道を選んだ。


「うわっ」

いきなり強くなった雨に、思わず声が出た。制服の上に着た紺色のレインコートに雨が当たって、ばちばちとうるさい。

激しい雨で視界が悪くなる上に、レインコートで動きも鈍くなる。もう最悪だ。昨夜遅くまで携帯をいじっていた自分をどうにかしてやりたい。