「あっ。愛さ、5時間目だっけ? なにしてたの?」

廊下を歩いていると、笑いのおさまった綾美が尋ねてきた。

「えっ……とねえ……」

慌てて言い訳の引き出しを開けていく。間違っても、私たちがそれぞれ抱く芹沢くんたちのイメージをまとめていただなんていう事実は言えない。

手が勝手に書いていたのだが、今そんな言い訳は求めていない。

普段なら出てきすぎるくらいな言い訳も、こういうときは出てこないどころか引き出しの中に入ってもいない。前回出したときに片付けなかったのだろう。


「ああ……あっそうそう。漫画描いてたの。結構本格的な……」

奥の方から引っ張り出した言い訳を投げつけると、綾美はまた笑った。彼女は笑い上戸なのだろう。

「ハハハッ、うっけんだけど。数学で……美術?」

「もう。そんなに笑わないでよ。ちょっと教科 間違えただけなんだから」

上辺では口を尖らせながらも、内心 綾美が笑ってくれたことにほっとしている。芹沢くんたちのことを話に出して不穏な空気が漂うということは、昼間の20分ほどでよくわかった。


「……はあ。いや、愛ってほんっとに面白い」

「ありがとーう」

こういう言葉は、基本褒め言葉として受け取っておく。言い方は完全にばかにしているけど、それを気にしないでいられるのが私のいいところだ。