教室に戻ってきたときにはまだ20分ほど残っていた昼休みも、気がつけば終わっていた。今は、黒板に書かれているわけのわからない記号だの式だのをひたすらノートに書き写している。


綾美と自分の、芹沢くんに対するイメージの違い。それは、私が思っていたよりもずっと大きかった。

私の中では、土曜日のコンビニでの最後、ドアを開けておいてくれたときからよくなり始めていた。さらに、昼休みのあれでもっとよくなろうとしている。

だけど綾美の中では、まだ中学の頃のイメージが抜けないらしい。

別に、綾美が芹沢くんや大野くんをどう思っていようと構わない。だけど、不良や問題児というのはどうしても違うような気がしてしまう。本当の2人のことなんて、なにも知らないのだけど。


「……あのう。なに、書いてるの?」

ふと隣の席の男子に話し掛けられた。ほどよい長さの黒髪に黒縁メガネといった、とても真面目そうな雰囲気を放つ男子だ。

「ごめん、なに?」と聞き返すと、彼は私のノートを指した。私は自分のノートに視線を戻した。

「やばっ……」

そのノートは、今の教室に流れる数学といった感じは一切なく、中身は自由帳のようになっていた。私と綾美が抱く芹沢くんたちに対するイメージが、私らしくない かわいらしい図でわかりやすくまとめてある。

こんなところにわかりやすさなど求めていないと思いながら、急いでそれらを消していく。

先生が教室内を1周し、教壇の上に戻るためそばの通路を歩く頃には、ノートには薄っすらとなにかを書いた跡が、机の上には不自然なほどの消しゴムのかすが残った。

先生は私やこの席を見て呆れた表情を浮かべたけど、注意はせずに授業を続けた。私は安堵の息をつくと、黒板の内容に追いつこうと改めてシャーペンを走らせた。