瞬の心に会った数日後、私は紺色の空の下、奏と丘を訪れた。ここに着くと、奏はこの場所を知っていると言った。高校を卒業して、私が瞬と再会した頃、散歩に出掛けたいという瞬について行ったら、ここに辿り着いたらしい。
その話を聞いたとき、私はその頃、彼がなにか悩んでいたのだと思った。同時に、なにも気づかなかった自分を恨めしく思った。
「あっ、そうだ」
奏はそう言うと、小洒落たハンドバッグからなにかを取り出した。それを私に差し出す。
「瞬くんが、あとで愛に渡してくれって」
「瞬が?」
頷く奏から彼が差し出すものを受け取った。足元にガーデンランプがありそれに近づけて確認すると、黄色地にピンク色の桜とその花びらが描かれた封筒だった。高校の頃に買った扇子を思い出した。
「12月頃だったかな。瞬くんに桜が描かれたレターセットを買ってきてほしいって言われてさ」
「えっ、じゃあこれ、奏が選んだの?」
結構時間掛かっちゃった、と彼は笑った。
「最後の2択が究極でさ。で、結局それに。したら瞬くん、今の俺が使うにはもったいないくらいだって」
瞬が言った様子が目に浮かび、薄っすらと涙が浮かんだ。
しゃがんで便箋を取り出した。2つに折られていたそれを開く。
『愛
いままで、ほんとうにありがとう
あいがいて、あいにあえて
ほんとうによかった
大好きだよ
いまそこから、星はみえますか?』
力が入らなかったことがひと目でわかる瞬の字に、少し前に聞いた彼の声が蘇り、気がついたらまた涙が流れていた。
いまそこから、星はみえますか――。私は便箋を封筒に戻した。そのとき、他にもなにかが入っていることに気づいた。
「……写真だ」
紺色の空に、1つだけ明るい星が映っている。私はその写真を目の前にやったまま空を見上げた。写真を右にずらすと、視界に写真と同じ場所に同じくらい光っている星が現れた。なんとなく、私の一番星だと思った。
写真を左手に持ち替え、開いた右手を空に向けた。瞬に届けと願いながら、心で強く想う。
私はここで、ずっと待ってるよ。
大好きな瞬が来てくれる、そのときまで。
お揃いの、2つの指輪と一緒にね。