少しの間そのままでいて、右手で口元を覆った。再び優しく吹いた風に泣き顔を上げると、たくさんの小さな花びらが澄んだ春の空を舞っていた。

しゃくりあげながら右手を胸元にやると、探していたものによく似たなにかに触れた。自分の胸元を見ると、ネックレスに通った指輪があった。自分の右手中指を飾るものと似ているが、今胸元にあるのは石が黒い。

「しゅん……」

ゆっくりと大好きな人の名を呼び、胸元の指輪を握る右手に力を込めると、最近流したもので一番辛くないような、一番辛いような涙が頬を伝った。


このネックレスがなくなったのは、瞬からのサインだったんだと思った。昨日見た夢もそうなのかもしれない。

「大好きだよ」

胸元の指輪を両手で握り呟くと、タイミングがよかったのか瞬に届いたのか、もう一度優しい風が吹いた。